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鳥取地方裁判所 昭和47年(ワ)138号 判決

原告 松下雅之

右訴訟代理人弁護士 山下勉一

被告 武田竹乃

右訴訟代理人弁護士 神谷義二

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

被告は原告に対し三五五、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日から右支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言。

(被告)

主文同旨の判決。

第二、請求の原因

一、被告は自動車駐車場を経営する。

二、原告は、昭和四七年八月一三日午後一一時三〇分頃被告方において普通乗用自動車(和五五そ八二六二号)(日産プリンススカイライン)一台を保管料二〇〇円で保管を託し、被告は即時同所においてこれを承諾し右自動車を受取った。

三、原告は翌一四日午前六時三〇分頃右自動車を返還を受けるべく被告方に赴いたが、右自動車は既に訴外松下裕が窃取していた。

四、右自動車は原告が昭和四七年五月一九日訴外日産プリンス和歌山販売株式会社から代金九九三、〇〇〇円で買受けたもので、盗難当時少なくとも九〇〇、〇〇〇円の価額であったが、原告が昭和四八年六月頃岡山地方検察庁から還付された際の価額は五四五、〇〇〇円であった。

五、右盗難事故は被告が保管義務を完全に履行しなかったことにより生じたものであるから、被告は原告に対し右損害を賠償する義務がある。

六、よって原告は被告に対し三五五、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三、被告の答弁と主張

一、請求原因一項は認める。

二、同二、三項は争う。昭和四七年八月一三日夜遅く普通乗用車二台に分乗した四人が被告方を訪れ、右自動車の保管を依頼したが、被告が断ったところ、旅館を探す間自動車を置かせてくれと懇請したので、止むなく駐車する土地乃至場所を提供するのだから盗難その他の事故については一切責任を負わない旨話合のうえ、右二台の自動車の駐車土地を提供し、その賃料として四〇〇円を受領した。

しかし、自動車の鍵を預かったこともなく、自動車の保管を承諾して預かったこともない。

本件自動車を訴外松下裕が窃取した事実は認める。

三、同四項は争う。しかし原告が昭和四八年六月頃岡山地方検察庁から原告主張の自動車の還付を受けた事実は認める。

証拠≪省略≫

理由

一、被告が営んでいる駐車場において昭和四七年八月一三日夜半から翌朝の間において、被告が受寄中の普通乗用自動車一台が盗難にあい紛失した事実は当事者間に争いない。

二、≪証拠省略≫によれば、被告駐車場は約千坪で五〇乃至六〇台の収入が可能であり、出入口通路は一ヶ所で道路からの長さは約一〇メートルあり両側にはガレージが並んでいるが奥広場は水銀灯三基が設けられているのみで門戸牆壁は設置されておらず、出入口には呼鈴が設けられて約一〇メートル離れた被告宅に接続して被告を呼出すようになっているのみで管理人もおらず管理事務所も設けられていない。又料金は午前九時から午後五時まで二〇〇円、午後五時から翌朝九時まで二〇〇円の前納制で、自動車のキーは利用者において保管し、利用者は適宜入場して、被告に駐車時間を告げて料金を支払うが、退場の際は被告を呼出すことなく自由に入所して退場する方法がとられていた。

ところで、原告は昭和四七年八月一三日午後一一時頃、友人四人と二台の乗用車に分乗して被告方に赴き、被告を呼出し、旅館を探すから車を預かって欲しい、旅館がなかったら自動車の内で寝させてくれと申込んだので、被告は車の内で寝られるのは困ると答え、知合いに旅館に電話したが満員で断られた。そこで原告らは自分らで探してくるからそれまで三〇分か一時間置かせてくれと申入れ、被告もこれを了承し原告らの差出したキーの保管を断り一台につき二〇〇円の割合による金員四〇〇円を受取った。

以上の事実が認められる。

≪証拠判断省略≫

右事実によれば、原・被告間の契約内容は被告からの保管場所の提供にとどまり、これをこえて更に自動車の滅失・毀損等を防止するための積極的保護の供与までは含まないものと解するを相当とする。

してみると、本件自動車の盗難による損害は、善良なる管理者の注意義務のない被告に負担させる理由はないことに帰し、従って、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は失当として棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納一郎)

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